ざつ

SNSで呟くには長すぎる独り言。あとで見返して作品視聴当時の自分がどう感じたのかを知るための記録

ヴィンランド・サガ(アニメ) 感想とヴィリバルドの愛

私自身、ヴィンランドサガの原作を読んだのはかなり昔で記憶がほとんどありませんでした。せいぜい主人公の顔とアシェラッドの顔くらいしか覚えていませんでした。しかし楽しんで読んだ漫画だったと記憶しています。要するにアニメを初見気分で見ることができました。

 

この作品は歴史の知識もよく出てくるので勉強にもなりますし、当時のヨーロッパ周辺国の歴史(主に現イギリスとデンマーク)やヴァイキングに興味を持つきっかけにもなります。レイフ・エリクソンやスヴェンなど、実在の人物も登場します。ウェールズにいかにもローマ人らしい人が出てくる細かさも凄いことですね。キリスト教とデーン人の宗教に関しても触れています。

 

主人公トルフィンがとある事情からヴァイキング集団に加入し、略奪や戦に身を投じていく話です。トルフィンが所属するヴァイキングは決して良い集団ではなく、略奪行為などを厭いませんし、トルフィン自身もためらう描写もありません。しかし、これらの行為を美化したり、肯定する作品ではないことはご理解ください。

 

個人的にはスロースターターな作品です。尻上がりに面白くなっていきました。アシェラッド、トルケル、ビョルン、クヌートなどのサイドキャラクターが魅力ですね。(アシェラッドはメインか)

 

 

以下ネタバレ注意(アニメ)

 

 

 

 

 

「愛」と「差別」

作品を観るにあたり、新たな価値観や考えに触れることは非常に有意義なことだと思っています。この作品で興味深い考え方に、愛と差別があります。登場人物の神父ヴィリバルドは「愛とはなにか」と問われた際に死体を指さして「あれこそ愛です」と言いました。その死体は己の肉体を自然界に与え、何も傷つけることも文句の一つも言わなくなり、ただ与えるだけの存在になったからだと。クヌート王子は当然の疑問をぶつけます。自分を育て、支え続けてくれた従者の行為は愛ではないのかと。神父はそれは差別だと断言します。差別という言葉にネガティブな印象しかなかった私の脳は一瞬理解を拒みましたが、差別という言葉にネガティブな先入観を持っていた自分に気がつきました。確かに辞書でも「差をつけて扱うこと」とあります。それならヴィリバルド神父の言ったことは事実ですね。

愛という言葉は現代では気楽に使われていますが、昔は愛の概念がなかったことにも意表を突かれました。それとともに昔と今とでは意味も違っていて、時とともに愛への理解も変化していったんだろうなと感じました。もちろんこれはヴィンランドサガという作品の解釈なのですが、それでも考えさせられる作品はいいものです。

ヴィリバルド神父は愛の定義を探している時、トールズが敵を殺めずに戦った話を聞いて衝撃を受けた様子がありました。あの時代、敵を殺めたり逃げたりしないことは衝撃的な発想だったのでしょう。何者にも「差をつけた扱い」をしないことが彼にとっての愛だったのでしょうか。

 

アシェラッド

アシェラッドはこの作品のアニメ化した範囲において、個人的にトルフィンよりも重要な人物だったと思います。デーン人を憎みながらも彼らを率いて利用していましたが、謀反を図った兄弟や、ビョルンも憎んでいたのか気になるところです。兄弟には効果な腕輪を渡し二度と剣を握るなと忠告し、ビョルンには決闘を引き受け闘いで引導を渡すことによりヴァルハラにおくり、死に際に本心だろうとなかろうとビョルンを友人だと言ったりと、憎しみだけではないことがわかります。彼らに対する憎しみはあったにしろ、同時に情もあったと思います。感情は複雑なものです。対象が憎いからと言ってそれだけしか感情を持ち合わせているとは限らないものです。時に矛盾するものなのです。そんな矛盾もアシェラッドの魅力の一つに思えます。

死に際、アシェラッドはトルフィンに今後どう生きるかを問います。トルフィンはずっと復讐が目的だったからこそ、アシェラッドは彼の未来を案じたのでしょう。なんという懐の深さか。それともトールズの事と、これまで利用してきたことに対しての贖罪か……私には彼の心はわかりません。それでも良い意味でも悪い意味でもトルフィンの生きる道を示してきたのはアシェラッドだと思います。深いキャラです。

 

アニメーション

背景画がとにかく美しいのがこのアニメの好きな点です。ああいう草原は憧れます。戦闘シーンも滑らかに動きます。最終話で、トルフィンがナイフを落とす際、ナイフにこれまでの出来事が映る演出は美しいと感じました。ただ、トールズの無双具合はちょっと浮いてたように思います。裏拳で沈むって。

 

ヴィンランドサガは素晴らしい作品でした。歴史に興味を持つ入り口にもなりますし、いろんなことを考えさせられました。是非いろんな方に見ていただきたい作品です。ちなみにかなり昔に漫画を読んだ記憶では、トルフィンって大人になって土地を耕していたような記憶があります。