ざつ

SNSで呟くには長すぎる独り言。あとで見返して作品視聴当時の自分がどう感じたのかを知るための記録

シグルイ 感想とラストの個人的解釈

シグルイは自分が読んできた漫画でも色んな意味で容赦のない漫画だと感じました。物語の展開から絵柄、残酷的な描写まで、類をみないものでした。

 

まずは絵柄の話を。目以外はリアルで、一部の人物は実在してそうなほどでした(高弟の丸子とか)。人が斬られた時も血をどぱーっと出さず(場合の寄っては血がない)、その断面をきっちり描き切るあたりはリアルではないのかもしれませんが、技の恐ろしさは伝わってくるので問題はありません。これもまた他の漫画ではめったに見ない描き方ですね。

また、この漫画は肉体にこだわりがあるのか、男のティクビもしっかり描いています。ただ丸が描いてあるだけでなく、しっかり立体的に。違う体系の人物の肉体を描き分ける技術も素晴らしいです。時代が時代なので仕方ありませんが、髪型のパターンが限られている上、登場人物が多いので一部の士の見分けがつかなくなるということもあります。あれ?この人数巻前にでてきたあの人と同じ人物だっけ?といった事が何度かあり、気になった場合はわざわざ他の巻を開いたりもしました。

容赦がないといえばあらゆる面で取り繕ずありのまま、といえば大げさですが、汚い部分を見せるのに躊躇いが無いと感じました。それは人々の生活だったり、主人公含むあらゆる登場人物の思考や行為だったり。主人公たちのやったことの多くが、現代の基準だと非道に感じられるものが多いです。読む人は、藤木たちが当時の価値観に生きている事を忘れないでほしいですね。当時のタブーも結構破ってるみたいだけど。主人公たちは強いのですが、身分は高くはないので高い身分の士に理不尽な目にあわされることもあります。世知辛い。

 

以下ネタバレ注意

 

 

虎目流

虎目流の流れ星や無明逆流れの切り上げ、どちらもデコピンの原理ですよね。抜刀術も同じかな?人差し指と中指で握る理由はわからなかったけど、登場人物の筋力がすごいので説得力があります。

藤木以外の高弟もかなり強いんだろうけど描写が短いうえ、伊良子に一撃でやられてしまってるのでちょっと強い印象が薄い。宗像は一応の下手人を討ったからいいものの、山崎は実力不明の手負いの男を倒しただけで、丸子はあまり記憶にない。興津はハエ切ったり指二本で全身を支えたり、強キャラ描写はあった。なんとか三天狗にいたっては噛ませ未満でしたね。伊良子どころか虎目にやられるという……。見た目もなんかにやけてた男以外は印象に残らない。つーか厳しい修練を乗り越えた男の最期が師に斬られて終わるとは。

個人的に山崎がなんか気に入っています。というのも他の高弟たちと比べて濃いからなのか、いるだけでなとなく笑える存在です。なんか丸子と海で相撲してたり、他の高弟たちが船に乗っているのに一人だけ泳いでたりなどシュールです。なまくらと申したかという有名なパロネタも持っていることですから凄い人です。

 

 

牛股権左衛門

高弟たちがばたばた斬られた後、牛股が伊良子の刺客4人に囲まれたときは「権左死なないで(でも死ぬんだろうな~)」と思い、諦めていたら、彼が4人とも倒して意表を突かれました。よくある主人公以外は全滅の展開かと思ったのです。おおっ流石師範代。別格だなと感心した矢先、敵の毒をくらってしまった。この時点だと権左が致死の毒を食らったものだと思い、結局あっけなく主人公以外全滅か~とがっかりした記憶があります。嬉しいことに、結局生きてたけどね。

ちなみに一巻あたりの権左をみると誰やねんとなります。道場破りに来た伊良子を相手するとき、よくある展開で噛ませかと思いました。権左みたいな風貌は少年漫画だと力はあるけど愚鈍なキャラ付けをされがちですからね。私も少年漫画脳から抜け出さなくては。

とはいえ物語が進むにつれ、クリリンの如く藤木や伊良子に置いて行かれるのではと思いましたが、最期の最期まで怪物でしたね。彼はちょっと何が現実か、何が幻かあいまいな描写が多かったですね。権左が助太刀した際の大暴れは、聴衆と伊良子とでは話に食い違いがあります。のちの描写(思ったほど散かってなかった)から多分、おそらく、伊良子の言った通りだったの可能性が高いのかな。あるいは伊良子からすれば悪あがきだが、他の人からすればそれでも十分大暴れに見えるほどだったとか。他にも幼馴染を斬ったのか木を切ったのか、仇討ち後、夜に伊良子の前に現れたのは幻なのか、など謎は尽きません。

人物としては藤木や他の虎子に対する態度は好きですね。味方には厳しくも優しいが、虎目の敵には容赦無いといった感じでしょうか。虎子たちを同胞と言った時はなんだか人間味あふれて好きです。こういった描写に加え、桁外れの実力者だったのでこの作品で一番好きなキャラですね。

 

藤木と伊良子

藤木が貝殻を拾った時の会話さえなんとかなっていれば、伊良子も他の虎子とともに過ごし続け、この作品のような悲劇がなかったと思うとやるせないですね。藤木からすれば伊良子の心中知る由もなかったし、性格的に自分の本当のうまれをおいそれと話すのは虎目に対する不義理だと思っていそうだしなぁ。他の高弟も事情をしっているか分かりませんし、そもそも伊良子って藤木や牛股以外の弟子と話すのかな。牛股の同胞発言をしたときの伊良子は、彼が只の出世欲にまみれた人間でなかった事が分かります。それまで私は彼を藤木以外の弟子には興味がないのではないかと思っていましたが、しっかり全員の背景をしっていたり、他の武士とは違うと認めたりしていて意外でした。

最終的に伊良子は藤木の生い立ちをいくから知らせられますが、最終戦の直前なので時すでに遅すぎる。せめて誤解を解いて逝っただけましなのかなぁ?

藤木は正直何を考えているかよくわからない主人公でしたね。あまり心理描写のない人でした。虎目のための人生を生きると腹をくくっている感じで、伊良子に執着するのも、ひょっとしたら三重を守るのも虎目のためだったのかもしれません。

最終的に藤木も伊良子も互いに憎しみ以外の感情が生まれていましたが、はやり最終戦は互いに全力で挑み、藤木の勝利に終わった。

 

ラスト

決着直後、藤木は伊良子の首を落とす事を命じられます。激しい抵抗を覚える藤木でしたが、士という言葉が彼を突き動かし、伊良子の首を落とすに至ります。その後嘔吐し、悲しみも残しつつ前に進めると思った矢先、自陣で唯一の希望であった三重が自害した幕切れ。これでシグルイ完結。

初見だと到底呑み込めないラストでした。しばらく何故三重が自害したのか分かりませんでした。はやり伊良子に気があったのか?もともと事の顛末を見届けたら自刃するつもりだったのか、最終戦決着直後に消えた魔が最後の支えだったのか。いろいろ考えた結果、私なりの解釈をしました。

藤木が伊良子の首を落とした際、士という言葉がきっかけとなりました。これが鍵です。士うんぬんは常日頃から虎目が藤木に説いていた事。それが藤木の意志を殺し、伊良子の首を掲げるまでの行動を実行させた。三重からすれば、藤木は未だ虎目の傀儡で、これまでの日々もすべて藤木の意志でなく、虎目のいいつけだからやってきたものと思い、絶望して自害した、と私は思っています。初期に三重は虎目の傀儡だった弟子たちを嫌って、下を髪切ろうとした描写がありましたので、あれが今度は実行に至ったと思っています。これが私が自分なりに納得のいく説明ですね。

藤木にも、三重にもせめて幸せになってほしいと思っていましたが、なんという悲劇でしょう。

 

総評

素晴らしい漫画でした。絵だけ見ても見習うべき点が沢山ありましたし、当時の生活や法、語彙なども学べました。物語としては伊良子の復讐劇から第一仇討ちまでが面白さの最高潮でした。がまの話は必要なかったんじゃないかな?連載中はその辺りもう少しやる予定だったのかもしれませんね。思い返せば本筋に何のかかわりもありませんでした。てっきり伊良子か藤木あたりとの闘いがあるものかと。ちなみにあとから一巻から読み返してみると最終巻の内容がほぼそのまま載っていたので驚きました。なぜか忘れていたみたいです。おそらくその時は登場人物になんの思いも無かったので大した出来事ではないと軽く流したせいでしょうね。なんなら藤木が一巻の表紙で片腕だったことすら忘れていました。

流石名作と名高い作品です。非常に楽しめました。